初めて内山老師の本を読む人のために

内山老師の本は多くある。

初めて読む場合、どれを読んでいいか迷うかもしれない。

なので、ここでは「とっつきやすく通読しやすく、内山老師の教えの核となる部分をわからないなりにもつかめると思われるもの」に絞って紹介する。

なお、近年復刊されて、また復刊した出版社(サンガ)の廃業で絶版になってしまった「進みと安らい」でもよいのだが、これは最初期に書かれた本で、老師が小僧時代から長年にわたって温めてきた考えを体系的にまとめているので、そこそこボリュームもあって、初めて手に取る人には少しハードルが高いように思う。

また、内山老師の考え方の癖になっている西洋哲学的傾向(澤木老師に批判されたような造作が多すぎる性向)が色濃く出ているので、この点でも「とっつきにくさ」を感じて、途中で挫折してしまう人もいるに違いない。 

西田哲学のような、わかりにくい言い回しを嫌った内山老師が(後の思想的な転換もあったに違いないが)絶版した理由の一つもそこにあるような気がする。

反対に、だからこそ「進みと安らい」は永井均のような哲学者の琴線に触れる(食指が伸びる)著作物として挙げられたのだろうが、哲学的な捉え方で論議されることは内山老師の本意ではないだろう。

ということで「進みと安らい」に関しては、読むにしても一番最後か、第4章「自己の構造」のみをためし読みするか、むしろ内山老師が絶版したのだから「読まない」ほうが良いかもしれない。

生命の実物 

復刊された大法輪閣のものもあるので、手に入れやすい1冊。

これは、安泰寺がそもそも(現在もそうだが)外国人のたまり場になっていて、そうした外人だちに如何に伝えるかという点で英語でまとめられた入門書の翻訳版である。

そうした点でいえば、いかにも既成の仏教の文脈でなんとなく伝わるだろう、という言葉の選び方や話の筋道では伝えられない相手に対して、いかにも磨き抜いた言葉と具体的に噛み砕いた話がまとめられている。

また、分量も少なく通読しやすい。 

そしてなにより「生命の実物(後年になって老師は「なまのいのち」と言い換えられているが)こそ、内山老師の数々の「掘り下げて磨き抜いた言葉」の中でも、その中心に据えられるべき、最も重要な言葉であり教えであるので、すぐには理解できないかもしれないが、これにまず目を通しておくのは良いと思う。

なお、「生命の実物」とは「仏法」のことであり、いかにも自由に話しているような場合でも、そこには典拠としての仏典があることは付け加えておきたい。

求道(1977年初版、1989年新装版)

求道―自己を生きる

求道―自己を生きる

 

著作リストから言うと、初期のころに書かれた1冊。

求道は(ぐどう)と読む。

内容的にもバランスが取れていて、講演録(提唱)あり、随筆あり、詩作(法句詩)あり、読み物として楽しい托鉢録あり、バリエーション豊かな1冊。

残念ながら、柏樹社の古書しかない。

ただし、一昔前であれば古本屋を探し回らなければ手に入らなかった本でも、Amazonなどで複数出品されている場合があり、その点ではある意味入手しやすくなっている。

  • 第一話:価値転換の時代(随筆)
  • 第二話:祖訓と私(随筆)
  • 第三話:生死(詩)
  • 第四話:求道者(提唱)
  • 第五話:泣き笑いの托鉢(記録)

まず、読み物としての第五話から読んで、そのあと内山老師の本質的な考えが短い言葉でまとめられた第二話に目を通してから、本書の肝である第三話の提唱、それから第二・第一と読むほうが読みやすいと思う。

なお、第三話の提唱は「安泰寺へのこす言葉」となっているように、昭和50年(60歳)に老師が安泰寺堂長を辞める際、弟子たちに向けて話された内容なのだが、これは録音が残っており、以下のYou Tubeで聞くことができる。


www.youtube.com

残念ながら音声がくぐもっていて録音状態が良くないので、書籍で読んだほうがわかりやすいと思うが、老師の声で聞くとまた違った印象を持たれるはずなので、あわせて紹介しておく。

ほかにも安泰寺のYou Tubeで内山老師の提唱が聞けるので、録音状態の良いものから聞いてみてもよいだろう。書籍よりも提唱から入ったほうが良い場合もある。

このYou Tubeの提唱に関する記述はまた別の記事で後日まとめたい。